聖なるブログ 闘いうどんを啜れ

アクセスカウンタ

zoom RSS コラムニストとしての加藤周一

<<   作成日時 : 2008/12/07 08:37   >>

トラックバック 5 / コメント 2

K‐1のリングって神聖だったの???

 加藤周一が死んだ。小田実は病状を公表してたから驚きはなかったけれども、加藤周一のばあい、130歳までは大袈裟だとしても、すくなくとも120歳までは生きつづけてくれるだろうと思っていただけに、この良心的知識人のとつぜんの死は惜しまれる。中村真一郎はこの人と食事中に倒れて亡くなったと聞いた。
 ことしのはじめ、二十年前にNHKで放送された「日本 その心とかたち」の録画を、まとめてDVDにダビングしたところだった。日本美術を通時的かつ共時的に読み解いてゆく加藤周一の該博な知識と巨大な視野、児玉清の語り、見岳章の音楽(これが最高)があわさった、すばらしい番組だった。こいうかたちでテレビにかかわれる文化人もすくないだろう。

 九〇年代以後の加藤周一は、赤狩りにのみこまれ、けっこう叩かれていた。谷沢永一はむかしから狂ったように(てか、狂ってるんだけど)攻撃してたし、ゴマスリ評論家某は「引退して余生を送れ」とか醜悪なこと書いてた(お前が引退しろ!)。ゴチエイは加藤がテレビで脆弱をキジャクと発音していたからその教養は信用できないとか書いてたが、ホントかしら? だいたいゴチエイってのは、西尾幹二の外国人労働者受入反対論は安易な賛成派よりはるかに人道的だとのべてたはずなのに、いつのまにか西尾の鎖国論はヒューマニズムに基づいているとか横ズレして批判するような錯乱したヤツだから信用できない。そもそもゴはテレビなんか見るのか? そういや海老坂武も戦後まもなく出された加藤のサルトル翻訳は全頁にわたって誤訳が発見されたと書いてたが。佐高信も加藤および『羊の歌』をしょっちゅう批判していたな。

 反人間中心主義反文明主義ディープエコロジーを標榜するあちきも、近代知性を体現する加藤周一の思想を根本的には賛成できない。あちきが加藤周一からうけた影響は、文学概念を、小説・詩歌・戯曲といった枠にとどめず押しひろげて捉えてゆこうとする精神の運動だったかもしれない。
 しかしなにより、あちきにとって加藤周一とは、重厚な思想家ではなく、諧謔に富んだ軽妙な時評家、コラムニストだった。「さらば藤純子」や「さらば川端康成」という文章もあじわいがあったし、朝日新聞に月一で掲載される「夕陽妄語」はもう二十年以上愛読してきた。
 今日はそのなかで、あちきがもっとも愛する一文を紹介する。題して、「タバコ(と酒)の害について」。手元の切抜きに日付はないが、たぶん1986年ごろのものだと思う。

 《二〇世紀の後半は、核軍縮競争の時代であるが、二一世紀は禁煙禁酒競争の時代になるだろう。すでに米国内では禁煙が徹底しているし、ソ連では禁酒政策が進められている。しかも超大国には、彼らの国内での習慣を他国に及ぼそうとする傾向があり、その準備もすでにはじまっているらしい。》
 《米国人にとって善いことは、人類にとって善いことであり、米国人の健康に悪いことは、人間の健康に悪い。しかるにタバコの煙は、動脈硬化を促進し、肺がんの確率を高め、慢性気管支炎を誘発し、あきらかに米国人の健康に悪い。そういう煙を出すヤツは、悪人であり、悪人は単に米国において排除するべきものではなく、外国においても排除すべきものである。》
 《禁酒法で失敗したことのある米国は、酒のほうが麻薬よりましだと考え、ソ連でも禁酒より禁煙が必要だと考える。酒は飲むべし。いくら飲んでも酔っ払わず、肝硬変にもならないクスリ(アルコール・ディフェンス・イニシアティヴ、略してADIという)を開発すれば、米国市民の安全は保証されるし、ソ連もそうすれば健康この上もない世界が出現するだろう。》
 《そのとき、日本国には何がおこるだろうか。自民党は、まず煙草を吸わない総裁すなわち首相を選ぶ。なぜなら、わが国の外交の基本は「対米協調」だからである。さてその上で、対ソ交渉がうまくゆかないのは、交渉相手が酒を飲まないので、「腹を割って」話し合うことができないからだ、と主張するにちがいない。》《御用学者は、日本の工業力が発展したのは、企業家・研究者・会社員・労働者が一体になって努力したからであり、一体化が可能であったのは相互の「コミュニケーション」が円滑であったからで、「コミュニケーション」が円滑なのは日本人が単一民族であるからだけではなく、酒席で話をまとめる素晴らしい伝統をもっているからだ、というだろう。》
 《「国際化」の方は、どうなるのか。二一世紀は、むろん「国際化」の時代であり、「国際化」とは市場開放である。「国家禁煙法」の例外は、米国製の輸入タバコであろうし、三三九度の中身は、――いうまでもなく、御存知「バーボン」になるだろう。》……

 諷刺の眼目は米ソ軍拡競争だが、現在の禁煙ファシズムの到来を、的確に予言している。ファシストどもがタバコの害をいいたてているうちに、酒がだんだんと人類をおびやかしているのだ。

 かくして、今日も正義と日本文化は、加藤周一によって守られた。いまわれわれは加藤周一に「さらば」というのでなく、「再見」といわなければならないのだ。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

トラックバック(5件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
加藤周一氏を悼む
12月5日、加藤周一氏が亡くなった。享年89歳だった。つい最近まで元気で活躍され ...続きを見る
HOME★9(ほめく)
2008/12/21 11:04
加藤周一の思い出
加藤周一氏には一度だけ会ったことがある。もう15年ほど前だったと思うが、地元の団体が加藤周一講演会を企画したのである。ところが、その講演会にどうしても参加できない用事があった。嘆いている私を哀れに思って、その講演会を企画したメンバーの一人の女性がそのあ... ...続きを見る
再出発日記
2008/12/21 11:10
加藤周一さんを悼む
12月5日、加藤周一さんが亡くなった。89歳だった。例によって、加藤さんをWIK ...続きを見る
夢幻と湧源
2008/12/21 11:23
追悼 加藤周一   加藤周一が観察し、考え、書いたこと
                               「中肉中背、富まず、貧ならず。言語と知識は、半ば和風に半ば洋風をつき混ぜ、宗教は神仏のいずれも信ぜず、天下の政事については、みずから青雲の志をいだかず、道徳的価値については、相対主義をとる。人種的偏見はほとんどない。芸術は大いにこれをたのしむが、みずから画筆に親しみ、奏楽に興ずるには至らない。---こういう日本人が成りたったのは、どういう条件のもとにおいてであったか。私は例を私自身にとって、そのことを語ろうとした。  題して「羊の... ...続きを見る
試稿錯誤
2009/02/22 12:20
加藤周一 1968年を語る   “言葉と戦車”ふたたび
ETV特集 「加藤周一 1968年を語る〜“言葉と戦車”ふたたび」 放送日 :2008年12月14日(日) 午後10:00〜午後11:30(90分) 12月5日死去した評論家・加藤周一さん。1968年パリ五月革命やプラハの春を目撃した。40年前の若者の反乱が今問いかけるものとは…加藤さんのラストメッセージを伝える。 2008年12月5日、評論家の加藤周一さんが89歳で亡くなった。加藤さんは夏、病をおしてインタビューに応じた。テーマは1968年。その年、加藤さんは五月革命に揺れるパリでサル... ...続きを見る
試稿錯誤
2009/02/22 12:23

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
 ご高説にまったく同意。私も大江氏の評する「大知識人」の鬼籍入りを惜しむ者です。
アカショウビン
2008/12/30 10:40
コメントありがとうございます。ほかにもさまざまな記事がありますので、ぜひご覧下さい。
闘いうどん
2008/12/30 21:24

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
コラムニストとしての加藤周一 聖なるブログ 闘いうどんを啜れ/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる