古代中国の環境問題

 金魚の子供にどうもフナ尾が多いと思っていたら、よくみると半分ぐらいメダカの子だった。そういえば卵を別の容器に移したとき、メダカのいる容れ物から水草をいくらかいっしょにいれたのだ。先週末、街の祭りの金魚すくいで、朱まじりの青文がいて、ちょっと風変わりで欲しかったのだけれど、この大きさではすくうのは六ヶ敷いし、すでに水槽は子供でいっぱいなので、諦めた。全透明鱗のランチュウや出目金もいて、なんとかすくえそうな大きさだったけれども、いまは子育てに集中しよう。

 2003年6月19日の朝日新聞に、加藤周一が「羊どろぼうの話」という一文を書いている。加藤周一のコラムは、このごろ諧謔味がうすれてしまっているが、気に入ったものは切り抜いて保存してい、これもそのひとつだ。たぶんコラムの書き手としての加藤周一は丸谷才一より上だろう。羊どろぼうの話とは、論語にでてくる「親父が他人の羊をくすねるという罪をおかし、息子がそれを公に訴えて証言した。息子の行動は是か非か、という有名な話」だ。孔子は息子の行動を非としたが、この話は、忠と孝、というより、人間の関係と行動から現われる矛盾について深刻に考えさせるものだ。加藤はこう書いている。「『韓非子』は法家の立場を代表し、公私・忠孝はある極限状況においては矛盾し、その双方を同時に実現することはできないということを指摘する。儒家のように私的感情にもとづく倫理を固執すれば、不孝を弾劾しても、孝を称揚しても、社会的秩序を保つことはできないというものである。公私は相互に超越し、それぞれの価値は相互に還元されない。たとえば時代をはるかに降って徳川時代の町人社会の義理と人情、はるかに遠くおよそ同時代の古代ギリシャでは、神託または運命と、人間の自由のようなものである。法家はそのことを鋭く意識し、儒家はそうではなかった。」 加藤の文章は、問題を深く追求するものではないが、古典を読み、自由に解釈してゆくことへのよろこびをあたえてくれる。バガバッドギーターやヨブ記なども、信仰するもののように読んだのではとうてい理解しがたいが、それでも思考を触発させる多くの知見を孕んでいる。そこからどうやって自分の思想をひきだしてゆくか。
 去年だか、呉智英がこの加藤周一の文章に難癖をつけていた。もう憶えていないが、はるかむかし加藤周一がテレビ出演したときの言葉使いの間違いやら、加藤が参考にした本の中の「すべからく」の誤用やらを鬼の首でも取ったように指摘していた。四方田犬彦や竹熊健太郎があてこするように「すべからく」を誤用する昨今、これをめっけた呉はよほど嬉しかったろうな。なにせ専門家が、ネタにしてくれといわんばかりにこんな間違いをしでかしてるのだから。呉みたいな珍保守主義者がひとりぐらいいたところで微笑ましいだけだが、呉の影響をうけた若手チンカス文化人が論壇を占拠しはじめたいま、日本思想界の将来は暗い。(余談だが、永島慎二と水島新司をいま混同していないのは呉のお蔭か。あと佐高信が貶した『羊の歌』を斎藤貴男が『世界』で褒めているのは興味深い)
 ところで、なぜこんなことを書いているかといえば、呉智英も絶賛する『孔子神話』の著者、浅野裕一の『古代中国の文明観』を読み、面白かったからなのだ。
 この本は、巨大な環境破壊をもとに発達した古代文明と、そのなかから派生した諸思想を概観する。古い伝説に、文字が発明されて、鬼は夜中に泣いた、というのがあるそうな。文字によって、世界は分節化され、秩序化され、明晰化する。人間中心主義に侵された世界は、鬼や龍や神神を排除し、栄えてゆく。日本にも、天皇によって自然神が排除されてゆくという伝説がある。神観念が変容し、人格神にとってかわられるのだ。怨霊の存在も環境破壊と関わりがあるだろう。自然が解体し、人間が神格化されるわけだ。靖国の英霊もその延長にある。近代国家制度の導入により、変容する神は、無名の民衆の死の共鳴装置となるのだ。ついでにいえば、織田信長がみずからを神と称したことが本当ならば、それも基督教との接触による神観念の変容と無関係ではあるまい。
 あだしごとがすぎたが、浅野裕一は環境危機と文明という文脈から儒家・墨家・道家の思想を読み解いてゆく。孔子にはかなり手厳しく、詐欺的性格が強いとまで書いている。十代の頃、老荘や墨子にかぶれた俺は、かなり共感を持って読んだ。もちろん個個の思想には欠点もある。しかしそこには現在の環境危機を乗り越えるための知恵も、とうぜん含まれているはずだ。浅野の研究は、梅原猛や安田喜憲の思索とも結合した、さらなる深化が望まれる。『環境危機をあおってはいけない』なんてウンコ本のでる幕はどこにもない。俺も通俗小説や新書本ばかり読んでないで、きちんとした古典をじっくり読まなければならない。

 『実話ナックルズ』には、少年犯罪者―暴力団―地方政治家という癒着が犯罪を野放しにしている現状を報告し、『紙の爆弾』では、イラク人の死体写真をネット投稿する米兵の病理が報告されており、『噂の真相』なきあとの雑誌も決して捨てたもんじゃないと思わされる。

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