「フラガール」「バックダンサーズ!」「出草之歌」

 いやあ、先月は忙しいがうえにさまざまな困難が重なり、大変だった。しかし、それらのすべてを片づけ、とうとう私は、正義の世界に帰ってきた。これからもいっしょうけんめい、力のかぎり滅ぼすぞ。さて、ヒマができたので、ダンスや音楽関連のすぐれた映画をつづけて観た。

 むかしはよく、そのころ流行りはじめたダンスお芸術映画を観たものだ。ラララヒューマンステップスなんかは、舞台よか映画のほうに力をいれてるように思う。西洋中心の「芸術」への関心を完全に失い、オペラやミュージカルは好きではないと、もう何度となく書いてるはずだが、それでも日本独自の歌舞劇への興味は尽きない。日本の、そしてアジアの音楽劇を創出してゆくこと。芸術と生活と社会を連関させ、変革してゆくことは可能だろうか。

  フラガール
 ハワイ先住民の舞踊が侵略者によって変容させられ、フラダンスとよばれる観光文化になり、それがさらに日本に移植され、変容する地域社会の観光文化に採りいれられる。そんな芸能と社会のありかたには異を唱えたいが、この映画はすこぶる面白かった。常磐ハワイアンセンターとは、縮小を余儀なくされる福島の炭鉱から、解雇者対策に作られたらしい。そんなことは映画ではじめて知ったけど、そもそも常磐ハワイアンセンター自体、名前は聞いてもどんなとこだかよく知らなかったのだ。
 石炭からハワイ、てな発想がどっからでてきたのか、その経緯も描いてほしかったけれども、孔の中を這いずりまわるような町の暮らしから脱け出したいと願う少女たちと、借金に追われ都落ちした元SKDの踊りの先生を中心に、それをとりまく町の人人を描き、だんだんと上達してゆくフラダンスをみせる。やや紋切型すぎる場面や台詞は気になるが、それはやがて、見応えある爽快な群舞の波にのみこまれてしまう。以前ハワイ先住民の古式フラを見たとき、インドのバラタナティヤムという舞踊に似ていると感じたものだが、劇中踊られる独舞は、腰蓑でなくスカートを履いて舞うと、やはりインドのカタックによく似た印象を受ける。先生役の松雪泰子が最高にカッコいい。ナイロンの三宅弘樹がけっこういい役で出ていて、ちょっと吃驚。超芸術「ダンシングヒーロー」にはおよばないが、「Shall we ダンス?」よりはるかにすばらしい。

  バックダンサーズ!
 こちらは「フラガール」の世界から四十年後。クラブでひたすら踊っていた主人公の女の子ふたりは、補導され、高校を退学になり、ゆきずりの女子高生に連れられ、立入禁止の貨物置場で踊りはじめる。そのうち高校生のほうはスカウトされ、アイドルからエロかわいい系の歌姫に変身し、人気者になる。のこされたふたりは、アイドル志望の女の子と、じつは子持ちの元キャバ嬢との四人で、バックダンサーズというユニットとして、添え物のようにデビューさせられるが、歌姫の衝動的引退で、存在価値を失い、おやじバンドとドサまわりに出るはめになる……
 てな、所謂バックステージ物。パンクロック楽団が、カツラと化粧を取ると、つのだ☆ひろや陣内孝則だったりするとこは、楳図かずお『まことちゃん』のらん丸みたい。そういや陣内はもともとうたうたいだったと思い出す。でも帽子かむってしかめ面してると、山崎努そっくり。平山あやは、韓国映画「風のファイター」で舞妓さんをやってたけど、演出か編集が悪いせいか、つまらなく、彼女の美しさだけが際立っていたのだが、今回はうってかわったキレのある動きをみせてくれる。全篇に鏤められた目に快いダンスさえあれば、挫折を繰り返したバックダンサーズがとんとん拍子に成功する物語のご都合主義などどうでもいいと俺は思ってしまう。その成功が、資本に取り込まれた「商品」化されることだという結果には不満もあるが、業界物なのだから、致し方ないか。最後の踊りの場面が、「フラガール」のそれとそっくりなので、つづけて観たほうが味わい深い。

  出草之歌
 こちらは台湾先住民の、元歌手にして現在議員を務めるチワスアリ(高金素梅)の記録映画。彼女については高橋哲哉『靖国問題』にも紹介されているとおり、先住民戦没者の靖国からの分祀を求める運動を行なっている人だが、撮影された先住民の音楽舞踊だけでも一見の価値がある。
 俺の母親は台湾で育ったのだが、先住民のことを「蕃人蕃人」とよんでい、中日にいた郭源治投手をみるたび、「これは蕃人の顔だ」と、差別意識丸出しの発言をしていた。彼らはいつも歌を歌っていたという。その美しい合唱は、小泉文夫の採集盤をはじめ、俺も何枚かのCDを持っている。伝統衣裳に身を包んだ彼らの、民族の誇りを取り戻そうとする歌と踊りは、心に沁みとおる。先住民歌手では一番人気があるという、警察官の歌声がとてもよかった。
 俺の大嫌いな評論家某は、高金素梅は中国派、と書いていて、事実かどうかは知らねども、たしかに彼女と関係する先住民組織の「部落工作隊」との名称は共産主義の匂いを感じさせるものだし、その一員の漢人は「社会主義を信じる」と発言している。俺は、先祖の霊を取り戻すという彼女の主張と行動に賛成するし、日本人はアジアの民衆と新しい関係を作ってゆかねばならないと思うし、小泉(純一郎ね、もちろん)は地獄に落ちればいいと思ってる。だけど映画の後半に映しだされる、彼女の、反靖国反日へと過熱していく活動家っぷりをみると、これには中国政府の意向が働いているのじゃないかと、つい勘繰ってしまうのだ。歌や踊りの伝統文化が、イデオロギーに取り込まれているのではないかとの危惧を抱く。先住民の運動は、反米・反市場原理主義だけでなく、反中華思想でなければならず、台湾先住民は、チベットやウイグルなど、中国少数民族とこそ共闘すべきなのではないか。

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