ルーミーの詩

 エミネイェニテルズィ原著 宗教法人東京トルコディヤーナトジャーミイ監訳 西田今日子訳『神秘と詩の思想家メヴラーナ トルコ・イスラムの心と愛』(丸善プラネット株式会社)を読む。

 最初この本を見つけたとき、日本では未知のトルコの思想家を紹介したものかと思ったのだが、ちがって、メブラーナとは日本ではペルシャの神秘主義詩人として知られるルーミーの愛称のことだった。もともとは教師や学者を指すメブラーナという呼び名が、いつしか彼の最も有名な呼び名になったということだが、ここでは日本で一般的な、ルーミーの名を用いる。
 ルーミーについては井筒俊彦が訳した『ルーミー語録』があるほかは、ニコルソン『イスラムの神秘主義』や黒柳恒男『ペルシアの詩人たち』に味わい深い詩がいくらか引用されているのと、筑摩の文学大系や平凡社の詩集大成に抄訳が収められているぐらいしか知らない。文学的に紹介されることの多かったルーミーの思想を、総合的に纏めたもので、美しい詩もこれまでにないほどたっぷりと引用されている。
 俺がはじめにルーミーの名を知ったのは、クラブント「世界文学三十六講」(『世界教養全集13』所収)でつぎの詩を読んだときだった。

われは太陽の塵、われは太陽の球、
塵にわれはいう、とどまれ、と。
太陽にいう、動きを止めよ、と。
われは曙、われは夕べの息吹き、
われは森のざわめき、海の波音。
われはマスト、舵、舵取り、船。
われは、船の打ちくだけるサンゴ礁。
われは笛の吐息、人の精神。
われは石のひらめき、金属の光。
われは詩の鎖、われは世界の輪、
創造のはしご、登りと下り。

 該当の詩は他の翻訳ではみたことがない。クラブントは同書で伊勢物語と源氏物語をごっちゃにしているから、ちょっと心配ではあるのだが。これで興味を持って、ルーミーの詩がもっと読みたくなり、上にあげた書物を探しだし、その言葉に酔った。やがてトルコに伝わる旋回舞踊の創始者がルーミーだと聞き、さらに親近感が増し、愛聴していたヌスラットファテアリハーンのカッワーリーとともにイスラム神秘主義の思想と芸術に想いを掻きたてられたものだ。
 本書に収録されたメブラーナの言葉をいくつか紹介する。

あなたの愛で甘く溶けてしまえたらいいのに
生きることの激しい苦みは容赦なく舌を刺す
言いたい奴には好きなだけ言わせておけ
私にはただあなただけで十分なのだか
奴らの怒りなど怖れるには足らぬ
たとえ全ての者が敵になっても構わない
私にはただあなただけで十分なのだから
世界の全てが消え失せても
私にはあなたがいればいい
あなたの愛に優るものなど何ひとつない
富もあなたの前には何の輝きも持たない
地上の全ては儚く消え去る塵に過ぎない
あなたの愛に優るものなど何ひとつない

 いうまでもないが、あなたとは神のことだ。神は外ではなく、自分の内に存在するというのが神秘主義の思想だ。

愚か者たちはモスクを崇めたてるが、
神の顕われる心は破壊しようと試みる
馬鹿者どもが!
そのモスクは地上の幻、心こそが真実ではないか。
精神の指導者たちの、教えを宿した心をモスクと呼ぶのだ。
聖なる者たちの意識の内に建てられたモスクこそ、
全ての者たちが礼拝を捧げるにふさわしい。
そのような心にこそ神は顕現するのである。

 イスラム教徒は偶像を否定したが、モスクという新たな偶像を崇拝してしまう。神はおのれの内にあり、誰にも偏在する。皆が内なる神を発見し、愛し、ひとつになればいいわけだ。

眼よ、おまえは他人のために哀悼の歌を奏でるが
しばしの間、ここでおまえ自身のために涙を流せ
木の枝は雲が流す涙によって新しい緑を繁らせる
蝋燭もまた流す涙によってより明るく照らし出す
嘆く者あればどこへでも赴いて共に涙流して嘆け
おまえほど嘆き悲しむのにふさわしい者はいない

 最後に教訓的な詩を二つ。

人間の吐息ひとつにもその魂ほどの価値があり
抜け落ちた髪ひとつにも秘められた財宝がある
だが時としてそのような価値と無縁の者もある
彼らと無縁であることこそ地上の財宝にも勝る


あなたに健やかな感性と澄んだ両の瞳があるならば、
それだけを手元に残して、舌と、心に潜む剣とを売り払ってしまいなさい。
もの言わぬ魚は、饒舌な舌を決して欲しがりはしません。
したがって互いの首を、刎ねることもしません。

この記事へのコメント

2009年10月05日 16:45
こんにちは。
なるほど、これが私が見た番組ででていたメブラーナの事なのですね。
偶像崇拝を禁じるイスラム、しかしモスクという偶像を崇拝している……深いですね…。
TB、参考にさせてもらいます。
ありがとうございました。
2009年10月05日 21:12
イスラム神秘主義の思想はとても奥深く、興味深いですけれども、翻訳が簡単に手に入らないのが残念です。イスラムの寺院もすごく美しいですよね。

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