ドイツの小説と映画 「治療島」と「THE WAVE」
猪肉
松本清張『張込み』(新潮文庫)を読む。「投影」はむかし『危険な斜面』という短編集に収録されていて、小学生の頃に感銘を受けた作品だが、読み返して、やはりすばらしい傑作だと思った。清張短編でも最上級の逸品ではないだろうか。マッギヴァーン『緊急深夜版』も似たような小説だったと記憶している。
セバスチャン・フィツェック『治療島』(柏書房)を読む。ドイツで大ベストセラーになったネオサイコスリラーとのこと。
娘が謎の失踪を遂げてしまった著名な精神科医ヴィクトルは、以後、虚脱し、絶望し、仕事をやめ、妻と離れ、孤島に暮らしている。そこへ女性作家アンナが診察を受けにやってくる。
もう医者ではないとつきはなすヴィクトルに、アンナは自分の奇妙な体験を話す。彼女の目の前には、自分が書いた物語の主人公が現われるのだという。彼女は最後に書いた、未完の作品の主人公のことを語る。それは、ヴィクトルのいまだ生死さえ不明の娘ヨーズィの失踪直前の状況に酷似していた。ヴィクトルはアンナが事件に関わりがあると確信し、真相を聞きだそうとする。だが彼女が訪れてからというもの、身辺には異様な出来事が頻発するのだ。
海外小説は読むのに骨が折れるのだけれど、本作はわりとスラスラ読める。もしかするとこんなオチかなと予想していたらそのとおりだったのだが、事後の説明が巧みだし、ちょっとしたどんでん返しもあるので読後感は悪くない。サイコスリラーといえば、ヒッチコックの映画の原作者でもあるロバートブロックの短編集『血は冷たく流れる』にはいくつか精神科医を採りあげた傑作があって、それのほうが味わい深いものだったのだが。
映画「監獄島」はバトルロワイアル死刑囚編だったけれど、深作作品ほどの衝撃はない。格闘映画としても不出来だ。
「THE WAVE」はドイツで「es」の4倍ヒットした映画ということだったが、観ると「es」の面白さにはおよばない。
高校の体育教師で水球部のコーチでもあるライナーは、民主主義の長所を教えるための五日間の特別実習を担当する。「無政府主義」と「独裁」というふたつの授業があり、ライナーは「無政府主義」担当を希望していたのだが、容れられずベテラン教師に獲られてしまう。しかたなく「独裁」を教えはじめる。さまざまな定義を生徒と討議し、確認してゆくが、そのうち彼は独裁には指導者が必要として、自らを指導者として、「ベンガー様」とよばせはじめる。この授業内容が一部の生徒の絶大な支持を得、翌日には制服が必要として、実習期間だけ白シャツにジーパンの着用を義務づける。ついてゆけなくなりやめてしまう生徒もいるが、これがさらに人気を呼び、別クラスから編入する生徒も出、定員を超える授業になる。
学級はやがて「ウェイヴ」と名づけられ、ロゴマークがデザインされ、ポーズが決められ、ひそかに麻薬など入手しているネットオタクの生徒もホームページ作成に意欲を燃やす。「ウェイヴ」によって生徒たちは団結し、いじめられっ子のネットオタクは不良たちと意気投合し、優柔不断な演劇部の演出家は毅然とした態度をとり、逆にいうことを聞かない役者は従順になり、内気だった女生徒は積極的になる。彼らは集団で夜な夜な街に繰り出し、そこらじゅうにロゴを貼りまくる。
ここまでみると、あれ? 独裁というよりアナーキーな行動じゃないの? と思ってしまうが、あるいはこれは一党独裁は社会主義の過程を経て生まれるということなのかもしれない。ここまでは自由奔放な青春映画の一コマなのだが、ついにそれは自由からの逃走をよびさます。水球部の試合場には制服を着ない生徒を締め出そうと見張りが立っている。集団の熱狂に危険を感じた女生徒は早早に授業から離脱した友人とともに、応援席に侵入し、「ウェイヴ」反対のビラをまく。試合は混乱し、中止になる。実習期間は終わったが、生徒たちは「ウェイヴ」の存続を望むのだ。そして…
現在では独裁などありえないと思っている大衆(愚民)の帰属意識のおぞましさを抉った作品だが、四十年前にアメリカであった実話だそうで、原作のノンフィクションは邦訳もあるらしい。ドイツでは教材として使われ、おなじみの話のようだ。もうすこし細部を描いてくれれば、もっと面白くなっただろう。この「ウェイブ」を某劇評同人誌と言い換えても同じなんじゃなかろうか。左翼の皮かぶったファシスト、サル真似PTSD太鼓持ちのインチキ野郎はどこにでも存在するものなのだ。ファシズムは現に存在していて、喫煙者達を抑圧しているのだが。
今年見た映画五本
1.バーダー・マインホフ 理想の果てに 2.スラムドッグ$ミリオネア 3.チョコレートファイター 4.コネクテッド 5.007慰めの報酬
松本清張『張込み』(新潮文庫)を読む。「投影」はむかし『危険な斜面』という短編集に収録されていて、小学生の頃に感銘を受けた作品だが、読み返して、やはりすばらしい傑作だと思った。清張短編でも最上級の逸品ではないだろうか。マッギヴァーン『緊急深夜版』も似たような小説だったと記憶している。
セバスチャン・フィツェック『治療島』(柏書房)を読む。ドイツで大ベストセラーになったネオサイコスリラーとのこと。
娘が謎の失踪を遂げてしまった著名な精神科医ヴィクトルは、以後、虚脱し、絶望し、仕事をやめ、妻と離れ、孤島に暮らしている。そこへ女性作家アンナが診察を受けにやってくる。
もう医者ではないとつきはなすヴィクトルに、アンナは自分の奇妙な体験を話す。彼女の目の前には、自分が書いた物語の主人公が現われるのだという。彼女は最後に書いた、未完の作品の主人公のことを語る。それは、ヴィクトルのいまだ生死さえ不明の娘ヨーズィの失踪直前の状況に酷似していた。ヴィクトルはアンナが事件に関わりがあると確信し、真相を聞きだそうとする。だが彼女が訪れてからというもの、身辺には異様な出来事が頻発するのだ。
海外小説は読むのに骨が折れるのだけれど、本作はわりとスラスラ読める。もしかするとこんなオチかなと予想していたらそのとおりだったのだが、事後の説明が巧みだし、ちょっとしたどんでん返しもあるので読後感は悪くない。サイコスリラーといえば、ヒッチコックの映画の原作者でもあるロバートブロックの短編集『血は冷たく流れる』にはいくつか精神科医を採りあげた傑作があって、それのほうが味わい深いものだったのだが。
映画「監獄島」はバトルロワイアル死刑囚編だったけれど、深作作品ほどの衝撃はない。格闘映画としても不出来だ。
「THE WAVE」はドイツで「es」の4倍ヒットした映画ということだったが、観ると「es」の面白さにはおよばない。
高校の体育教師で水球部のコーチでもあるライナーは、民主主義の長所を教えるための五日間の特別実習を担当する。「無政府主義」と「独裁」というふたつの授業があり、ライナーは「無政府主義」担当を希望していたのだが、容れられずベテラン教師に獲られてしまう。しかたなく「独裁」を教えはじめる。さまざまな定義を生徒と討議し、確認してゆくが、そのうち彼は独裁には指導者が必要として、自らを指導者として、「ベンガー様」とよばせはじめる。この授業内容が一部の生徒の絶大な支持を得、翌日には制服が必要として、実習期間だけ白シャツにジーパンの着用を義務づける。ついてゆけなくなりやめてしまう生徒もいるが、これがさらに人気を呼び、別クラスから編入する生徒も出、定員を超える授業になる。
学級はやがて「ウェイヴ」と名づけられ、ロゴマークがデザインされ、ポーズが決められ、ひそかに麻薬など入手しているネットオタクの生徒もホームページ作成に意欲を燃やす。「ウェイヴ」によって生徒たちは団結し、いじめられっ子のネットオタクは不良たちと意気投合し、優柔不断な演劇部の演出家は毅然とした態度をとり、逆にいうことを聞かない役者は従順になり、内気だった女生徒は積極的になる。彼らは集団で夜な夜な街に繰り出し、そこらじゅうにロゴを貼りまくる。
ここまでみると、あれ? 独裁というよりアナーキーな行動じゃないの? と思ってしまうが、あるいはこれは一党独裁は社会主義の過程を経て生まれるということなのかもしれない。ここまでは自由奔放な青春映画の一コマなのだが、ついにそれは自由からの逃走をよびさます。水球部の試合場には制服を着ない生徒を締め出そうと見張りが立っている。集団の熱狂に危険を感じた女生徒は早早に授業から離脱した友人とともに、応援席に侵入し、「ウェイヴ」反対のビラをまく。試合は混乱し、中止になる。実習期間は終わったが、生徒たちは「ウェイヴ」の存続を望むのだ。そして…
現在では独裁などありえないと思っている大衆(愚民)の帰属意識のおぞましさを抉った作品だが、四十年前にアメリカであった実話だそうで、原作のノンフィクションは邦訳もあるらしい。ドイツでは教材として使われ、おなじみの話のようだ。もうすこし細部を描いてくれれば、もっと面白くなっただろう。この「ウェイブ」を某劇評同人誌と言い換えても同じなんじゃなかろうか。左翼の皮かぶったファシスト、サル真似PTSD太鼓持ちのインチキ野郎はどこにでも存在するものなのだ。ファシズムは現に存在していて、喫煙者達を抑圧しているのだが。
今年見た映画五本
1.バーダー・マインホフ 理想の果てに 2.スラムドッグ$ミリオネア 3.チョコレートファイター 4.コネクテッド 5.007慰めの報酬

この記事へのコメント
思えば演劇は、そういった世相を皮肉・風刺するような作品が多かったりしますね。いやはや、とかく世間に振り回されがちな今日、気を付けなければいけませんね。
『THE WAVE』は未見なのですが、『es』には及ばないのですね。
ドイツ映画は日本ではあまり公開されないけど、
重厚な題材を描いた作品が多いですよね。
『バーダー・マインホフ 理想の果てに』は観たかったんですけど、
配給会社の倒産で私の地方では上映中止になったんですよ・・・。
評判の良い作品のようですね。
むかしのニュージャーマンシネマなどは重厚でかなり面白かったですが、DVDになってないものが多いです。「THE WAVE」はナチズムの再現という主題がドイツでは衝撃的だったのでしょうが、作品としては「es」ほどの面白さはありませんでした。
「バーダーマインホフ」の配給会社は倒産しちゃったんですか!? すごく刺激的な映画だっただけに、残念です。DVDは出るのでしょうか?
『バーダー・マインホフ 理想の果てに』は
DVDの版権がその配給会社とは別の会社ならば
DVD化される可能性はあると思うんですけど、
そうではなかったらDVD化されなくてお蔵入りしそうです・・・。
今週末は「マッハ!弐」が公開されます。ストーリーは気にせず、アクションを楽しみたいと思います。
今晩は☆彡
コメントありがとうございました。esについて、早速調べました。
ぜひDVDをレンタルしてみようと思います。
『バーダー・マインホフ 理想の果てに』、上映されると楽しみ
にしていましたが。。。。残念です。ポスターを見ただけです。
コメントありがとうございます。esはかなりの傑作なので、ぜひご覧下さい。バーダーマインホフのDVDが出されることも強く望みます。