フエゴ島先住民の歌

このところ更新が滞っているのは、病気の後遺症でまだ体調が万全でないのと、新しい評論執筆の準備をはじめているからであります。ストライクフォースのトーナメントは、アリスターとジョシュが準決勝進出だそうです。アリスターはK-1なんか出ないでこっちに専念してもらいたいな。

 というわけで、そのむかし読んだ秋山龍英著『失われゆく音楽をもとめて』という本に書かれていた、南米最南端の島フエゴの先住民オナ族の巫女ローラの歌にとても興味を惹かれ、ながいこと元になった音盤が聴きたくてたまらなかった。
 同書によれば数種の録音が残されているようだが、日本ではなかなか手に入らないらしく、著者もフォークウエイズから出た『Selk’nam Chants of Tierra del Fuego, Argetina』というレコードと、別の記念盤に収録された音しか聴いていないという。
 かろうじて俺が手に入れたのは、ベルリンの博物館の音源をCD化した、『Music!』に収録されている、1923年に録音されたヤマナ族の合唱で、短いものだが、すぐれた音楽だった。
 ところが最近検索してみたら前記盤のコンパクトデスクがアマゾンで入手可能だとわかり、一番安い値がついているものを注文した。
 品物が届いたら、どうもスミソニアン博物館で販売している複製盤らしく、原盤は二枚組なのだけれど、一枚しか入ってないし、解説もついてない。こりゃインチキだろうと思ったのだけど、とりあえず聴いてみたら、だいたいみな同じような歌なので(詞もわからないし)、二枚目も同じようなものに違いないと考えて心慰めることにしたのだ。
 とはいえ、歌と呪文の中間にあるような巫女の言葉は面白く、節をつけた語りみたいな歌にとつぜん中国語のごとき音節の声が挟みこまれたりする。これは秋山の本によれば霊の言葉なのだという。クジラの霊の語りはこうだ。

  私は待ち遠しい
  いまは泣きぬれて語ってはいるが、
  やがてカステン湾の黒い小石となってきらめくその日が――

 石原武『遠いうた』によると、別のヤーガン族の歌は、オナ族の巫女とは違い、感情を表す声そのもので、そこに意味は伴わないという。

  ハマラ ハマラ ハマラ ハマラ
  オララララ ラララララ

 フエゴの先住民族はマルセルモースも「真の未開人」と認めていたそうだが、これこそまさに歌の根源といえるものではないだろうか。しかし彼らはすでにほぼ絶滅してしまったらしい。その歌を生で聴くことはもうできない。
 せめて現存する音源をまとめて聴けるようにはできないものか。

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