劇評18 ロベルト・ベニーニ「ピノキオ」 ヨーロッパ企画「囲むフォーメーション」

知人のHPに掲載したもの

「演技」のなかで人間と人形は、ふしぎなかんけいをもっている。日常と違った「表現」としての人間の動きは、どうしても非人間=人形となり、また動きをあたえられた人形の「演技」は、どうしても人間的表現を志向せずにはいられない。〈人形が人間に近寄るのか、人間が人形に近づくのか〉との惹句を付された舞踊フォーラム2003~人形振りの秘密~(3/14 江戸東京博物館ホール)は、日本舞踊と西洋古典舞踊における人形振りを実演つきでみせてくれる。参考映像などもあり、面白いのだが、けっきょくは踊りのさいの苦心、といった芸談で終わってしまい、人間と人形との関係の考察にまでは立ち入れないという感じ。アジアへの目配りがないのも寂しい。そういえばピノキオのおはなしも、人間になりたがる人形の物語だ。シンポジウム「冒険を続けるピノッキオ」(4/20 浜離宮朝日小ホール)は、この時期封切られた映画および大岡玲の新訳で出版された「ピノッキオ」をめぐっての討議だったが、かんじんの映画の公開は二日前に終わってしまっていた。つきあいで入場した俺は、恥ずかしながら映画の監督・主演たるロベルトベニーニの存在自体を知らなかったのだが、イタリア映画研究家の押場靖志が紹介するその芸風は、いったいどういえばいいのだろう。毒舌を駆使した政治漫談でコロシアムを満員にしてしまうとか、音楽祭でローマ教皇をおちょくって司会をクビにされたりするところはまあアメリカでいえばレニーブルース、映画監督として世界的な名声を得ているあたりはビートたけし。押場靖志は「ライフイズビューティフル」で藤山寛美を越えた、といいあらわした。アカデミー賞受賞で得た財をつぎこみ、ふだんコケにしてる保守派の政治家に頭を下げて資金を集め、つくりあげたのが「ピノッキオ」。ピノッキオの物語には永遠のイタズラ小僧ベニーニの思いのすべてが詰まってる。大人になれない子供。人間になれない人形。あやつり人形なのに、糸もつけず遣い手の世話にもならず、自由にどこへでも跳びまわる存在。これは、人形劇の新しい可能性を示してはいないだろうか。そして人間を志向せず、永遠に人形のピノッキオでありつづけようとするベニーニ。こっちの勉強不足のため、話のほとんどを聞き流してしまったのが残念。映画人でなく、舞台人としてのベニーニがひじょうに気になった。人形と人間との関係の問題は、これからもさまざまな角度から考察されなければならないだろう。

ヨーロッパ企画「囲むフォーメーション」をみる(5/2 下北沢駅前劇場)。前回、ふらりとはいった「ロードランナーズハイ」はすごい傑作だった。ただのウダウダした会話がじつにしぜんでおもしろく、それだけでついはまりこんでしまう。で、今回は、「囲」のかたちに区画された九つの部屋を、時空をバラバラにして、一部屋ごとにみせてゆく。とるにたらない出来事が謎のスパイ事件となって発展していくさまと、謎のスパイ事件がとるにたらない出来事にすぎなかったという事実とが、しだいしだいに、パズルのように時空が嵌めこまれて明らかになってゆく仕掛けが見事。売込隊ビームとの合同公演「サッカー」のビデオもつい買ってしまう。これがまた傑作。一場はスポンサーである商店街のいいなりになって、新春サッカー大会の取材記事をデタラメに書き換えてしまうタウン誌の編集室。ニ場はサッカー大会の記事が対戦相手だった商店街チームの都合のいいように捏造されていることを知ってしまったスーパー店員達の憩う事務室。これだけでも充分おもしろいのだけど、同時進行しているはずのこのふたつの空間が一体化されたとき、彼等のさまざまな動きがじつは……と明らかになったときの感動はひとしお。ヨーロッパ企画はシベリア少女鉄道とならんで、シチエーションパズルコメデーの旗手として期待したい。

この記事へのコメント

ペット爺さん
2019年02月04日 20:59
はじめまして。押場靖志先生のNHKイタリア語会話で、ベニーニ監督のピノキオのことを知りました。はじめはベニーニ監督自身がピノキオを面白おかしく演じているのを単なる社会風刺だと思っていたのですが、これはもしかして『児童労働問題』を痛烈に皮肉っているのでは?と考えるようになりました。映画とかの子役もみな『児童労働』だからだめだということになれば、映画はこんなにおかしなものになる、といいたかったのではないか、と・・・
2019年02月06日 08:17
コメントありがとうございます。映画を見たのは十五年以上前なのでよく覚えていないのですが、ベニーニはそうとうな曲者のようなので、「ピノキオ」はもう一度見返してみないといけませんね。

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    Excerpt:   ロベルト・ベニーニ(1952-)は、イタリアはカスティリオーン・フィオレンティーノ出身の映画監督・俳優です。 もうロベルト・ベニーニ監督といえば46歳の年に、映画「ライフ・イズ・ビューティフル」(.. Weblog: Re:play racked: 2014-10-07 03:02