劇評23 TAEM発砲・B・ZIN「トランスホーム」

2003年の観劇回顧録のようなもの

  魂が降る夜
 十二月二十三日はいったい誰の誕生日だったか、二十五日は誰のだったか、人類の普遍的基層を求める俺にとってはほとんど関心がなく、記憶も定かではないのだが、TAEM発砲・B・ZIN「トランスホーム」(12/23 本多劇場)は、いかにもってな小劇場的ノリのなかに、自分の探しているものがみつかったような思いを感じさせてくれた。
 もともとは英吉利国で行なわれる予定だった英語による公演が中止になり、せっかくだからということで、日本語版と英語版をいっしょに上演することになったらしい。一時間ばかりの同じ劇(舞台装置などにびみょうな違いはある)を二本立でつづけてみると、見落していた部分なんかも発見できて便利だ。
 ゲーム開発をしている一人暮らしの主人公のアパートには、実家から持ってきた冷蔵庫・箪笥・テレビがあり、これらは古くなったので、隣に住む青年にあげ、新しく買い換えようとしている。ちょうどその夜、抽選に当たりオーストラリア旅行にでかけた家族(母・父・妹・犬)が乗っているはずの飛行機が墜落した、という報道。真偽を確かめようと右往左往する主人公。しかし、思い残すことがあって成仏できない家族の魂は、彼の部屋にあらわれ、あの、古くなった冷蔵庫・箪笥・テレビに、犬は隣のオートバイに、それぞれ憑りうつり、うごきはじめるのだ。ヤドカリみたいなこの装置がじつによくできている。そして彼らを死者の世界に連れ戻すため契約を結ばせようとする天使と悪魔があらわれ、主人公の恋人、会社の同僚、隣の青年を巻きこんでの大騒動が始まってゆく。
 この劇はとっても面白かったけど、俺が興味をそそられたのはやっぱり死者の霊が家具に憑依するという点だ。つくられて百年を経た道具は魂を得、付喪神になるといわれる。百鬼夜行絵巻には、手足のついた道具達の蠢くさまが、不気味に描かれている。もちろん「トランスホーム」の家具達に不気味さはなく、武藤陶子演ずる妹テレビなぞは愛らしいかぎりだが、こうした付喪神のような精霊崇拝と死者の霊が戻ってくるという祖霊信仰が劇のなかでうまく結びついている。そしてそれが物体劇を形成しているわけだ。ちかごろ仏蘭西国では、物との関係性を主としたオブジェ劇が流行りつつあるという。俺も日本で、いくつか感心させられた物体劇をみた。たとえば藤山新太郎による日本奇術(5/10 横浜にぎわい座)の演目のひとつ「蝶のたはむれ」で、紙でできた蝶が扇にあおられうつくしく宙を舞うとき。そしてみたこともないほど大量の水を噴出させる水芸(これはもう噴水芸だ)にも、人間の芸を超えた物との戯れを感じさせた。あるいはコリアパフォーマンスナウ(8/16 こまばアゴラ劇場)での、ユジンギュによる一枚の紙と光と影を巧みにつかった「韓紙」という演目。さらにケベック文化週間で演じられたデュルシネアラングフェルダーの「ビクトリア」(8/8 青山円形劇場)で、主人公の老婆が車椅子と戯れ、踊るとき。夏休み児童青少年演劇フェステバルで上演された民族芸能アンサンブル若駒「かえるとかにといのししとそれからそれから物語」(8/3 東京都児童会館4F講堂)はかんたんな道具と絵の描いた板などでみごとな表現をみせていたし、同じ企画でのオペレッタ劇団ともしび「シンプルプレイで2の寓話劇」(8/2 児童会館ホール)には、物をあつかうすぐれた劇を数多く手がける関矢幸雄の演出で、早野凡平の、真ん中に丸く穴のあいた四角い布、あの変幻自在の帽子によって、出演者がブタになり、ウサギになり、オオカミになる。ほかにも帽子は演者のつかうあらゆる小道具になって、驚きと悦びをあたえてくれた。あの帽子はたしか、凡平の師匠の幻の芸人、パン猪狩(東京コミックショーのショパン猪狩は弟)が発明したものと記憶する。そう考えると歓びもひとしおだ。この劇をみると、もはや児童劇の演出こそがもっとも先鋭的で、いまどき前衛などと口走ってる連中こそがもっとも反動的なのだと気づかされる。じつは人と物との関係を、自然崇拝にさかのぼって考察し、それによって演劇の本源、人類の普遍的基層、さらには人間と自然の共生のありかたを追究することが、俺の真の課題なのだ。
 「トランスホーム」の家族達は、おのおのの心残りをてんやわんやのうちにきっちり解決し、旅立ってゆく。一夜明けて、主人公はもう家族との思い出のいっぱい詰まった家具を手放すことはできない。はじめに書いたとおり、いかにもすぎるくらいの小劇場ノリの、笑いの多い劇なのだから、この一幕はほんとうは夢で、みんな無事に帰ってくる、というオチを期待したのだけど、そうはならなかったのが残念。


というわけで、去年の劇評(悪との闘い)を書くのに、今年のほとんどを費やしてしまった。われながら筆が遅い。最後にその他印象に残った舞台をあげておく。
 ケーシー高峰のお笑い診療所(5/4 横浜にぎわい座)
 エルビスストーリー(5/5 東京国際フォーラム)
 マリ国立民族舞踊団(7/12 ティアラこうとう)
 物部村いざなぎ流祭儀(7/13 草月ホール)
 インド現代舞踊「チャンドラレーカのシャリーラ」(7/15 アートスフィア)
 ネームレススタジオ「あれは風に吹かれた一枚の羽根なので」(7/16 タイニイアリス)
 ズーズーC「喜劇 多重人格者が痴漢冤罪に怒ります。」(7/27 シアターモリエール)
 テアトルアンリクネ「ロジナの目」(8/3 青山円形劇場)
 スーパー一座「ユートピア株式会社」(8/17 横浜にぎわい座)
 JPスタジオ「ノリノリ!」(9/7 東京都児童会館)
 最強☆プラネタリウム「東京パンプル娘」(9/23 パンプルムス)
 トルコダンススペクタクル「ファイヤーオブアナトリア」(9/26 NHKホール)
 歌舞伎「お染の七役」他(10/12 歌舞伎座)
 アジアミーツアジア(10/31・11/2・11/3 麻布デイプラッツ)
 歌舞伎フォーラム「助六 あんまと泥棒 二人袴」(11/10 日本橋公会堂)
 全国民俗芸能大会(11/22 日本青年館)
 劇団チャンパ「ハムレットマシーン」(12/13 新宿アイランドホール)

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