007 スカイフォール(ややネタバレ)

お待ちかね、007最新作は大傑作といえるぐらい見応えあったよ。

 まあ、クレイグボンドになってから、ジュディデンチのMがでしゃばりすぎというくらいやたら全面に出てくるようになって、もうこの人降板したほうがいいんじゃないかな、と思っていたら、今回さらに全面に出て、ほとんど実質ボンドガールといっていい扱いになっているので衝撃的。いや、むしろ寅さんふうにマドンナ(聖母)とよんだほうがいいだろうか。そのせいかボンドと関係を持つ女性も登場するけど、なんともケバケバしく、ひきつった笑顔は怖いし、出番も少ない。

 お話は「ゴールデンアイ」「ワールドイズノットイナフ」「ダイアナザーデイ」を焼き直して繋ぎあわせた感じなのだが、これら三本をあわせたよりはるかなコクと深みを具えている。そもそも007シリーズは深みを拒否したようなところがあって、ブロスナンボンドはとくにそうした軽さの傾向が強かったから、上記作品もたんに奇を衒っただけという印象しか残らないけど、クレイグ主演になってからは三作ともに脚本が素晴らしい。そのかわり、いつになったらこの人洗練されるのかしらと思う。「慰めの報酬」では、瓶ビールをラッパ飲みするなんてボンドらしからぬワイルドな振舞いをみせていたけど、今回も前半はずっと無精髭を生やしたままだ。

 今作にとてつもない魅力をあたえたのは、なんといってもハビエルバルデム演ずる元英国情報部員の悪役シルバ。おいらはこの俳優さん知らなかったから、さいしょ高山善廣かと思ったけど、ペネロペクルスの旦那なんですね。羨ましい。ちなみに私の世界4大美人女優は、モニカベルッチ・ペネロペクルス・ジェシカアルバ・綾瀬はるかとなります。とにかく、彼の怪演ぶりがいかんなく発揮されたストーカー気質の悪役が映画を支えてるといっても決して過言ではない。

 Mに見捨てられ、敵の手に落ち、地獄の苦しみを味わい、それでも死ぬことができずに生きのび、彼女に異常な復讐心を抱く偏執狂的悪役はあまりに不気味。独房に閉じ込められても、いつなにをしでかすかわからない存在は、「羊たちの沈黙」のレクター博士のように恐怖を掻き立てさせる。その内面は、同じ境遇であるはずのボンドの心の闇の部分を映してもいるのだ。そうみればシルバの語る生き残った二匹のネズミの逸話もより深く理解できよう。二匹のネズミが奪いあう獲物は母親なのだ。心理試験でのわずかな反応をのぞけば感情を表にださないボンドの代わりに、シルバはMへの憎しみを隠さない。シルバはおそらくボンドどうよう孤児であり、Mに母親に対するがごとき愛情を持ち、それが裏切られたことによって殺意に変わり、そのためだけに生きている。そして最後に、その憎悪の根底に隠れた愛情を見出すのだ。母の愛情を取り戻し、独占し、我が物にしたい、ひとつになりたいという欲望が彼を衝き動かす。物語の中盤までの展開はすべて母親殺しという彼の最終目的のために仕組まれた伏線にすぎない。観てるあいだは気がつかないが、あとになって考えてみたら、あんな迂遠なことしないほうが簡単に本懐は遂げられただろうと思ったりする。こうした強引な設定の無理を感じさせてしまったら、映画は失敗なのだが、そこは巧みに魅せてゆく。

 画面は全編うつくしい詩情に溢れているが、アクションが光るのは冒頭。オートバイと列車を使ったアクションは、そこだけで「ボーンレガシー」一本分に匹敵。でも以後はちょっと物足りないかな。冒頭でボンドと死闘を繰りひろげ、まんまと逃げおおせる殺し屋が、再登場ではあっさり倒されてしまうのが勿体ない。この、上海のビルの窓際での格闘は影絵のように美しいけど、高さと迫力が感じられないのが難点。最後、炎に包まれた屋敷で闘うダニエルクレイグはまるで「タワーリングインフェルノ」のスティーブマックイーンだ。そういえば新登場のQは大高透(筆名:フニクラ秀彦)にそっくりだった。なんかありがちなプログラマーみたいで、もうちょっと活躍の場面が欲しかった。そういってしまうと、Mに至っては、映画全編にわたって判断ミスばかりで、もとはといえば自分の失態が英国の大規模な破壊行為をを招いているはずなのに、偉そうに公聴会でテロの脅威について演説などして大丈夫なんか?

 もうひとりの自分ともいうべき敵との、母の愛をめぐる熾烈な闘争を経て、ボンドは真に007として自立するのだ。Mとはmotherの略称だったと思い知らされる。「ザ・レイド」とならぶ本年最高の収穫。観るべし。

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