山田勝仁『寺山修司に愛された女優』

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図書館の新着コーナーで山田勝仁『寺山修司に愛された女優 演劇実験室◎天井桟敷の名華・新高けい子伝』をみつけた。新刊かと思ったら、三年以上まえに出た本だった。

寺山が世を去って三十年が経っている。おいらはもちろん、寺山の舞台には間に合っていない。去年、ワタリウム美術館での寺山展を見て、生の舞台を体感したかったと痛烈に思う。
寺山の映画を観たのは大学に入ってからで、新高恵子(けい子)はぼんやりとした記憶しかないけど、美しいと思った。石井達朗さんの『ふり人間』には、ニューヨークで撮った、著者・寺山・新高・リチャードシェクナーの写真が載っているけど、やはり美人だ。で、本書新高けい子伝に載せられた若い頃の写真はほんとうに美しい。主演した昔のピンク映画はどうしたら観られるのだろうか?

60年代のピンク映画というのは、男女のからみこそあれ、裸をみせないものだったらしい。一世を風靡した新高恵子は、寺山から迎えられ、天井桟敷の舞台に出演する。さいしょの公演は新宿末広亭でおこなわれたという。千秋楽、最後の場面で、恵子はいきなり下着を脱ぎすて上半身を晒した。その即興行為には寺山も仰天したという。役者のアドリブを嫌った寺山も、恵子の決意を感じ取り、絶賛したという。観客もどよめき、歓声を送った。ジャリ「ユビュ王」で役者が客席に「クソッタレ」と叫んだ事件を思い起こさせる。

本書は天井桟敷のさまざまな実験的舞台を詳述していて興味深い。海外では観客に睡眠薬を飲ませるなんてこともやったという(ただし薬が効かず失敗)。
驚いたのは、役者は出演料を貰ってなかったということ。切符のノルマなどあったのだろうか。

ミュンヘンオリンピックのときには、組織委員に招かれIOC方式に反対するオリンピック批判劇を上演した。メキシコ五輪の直前、「トラテロルコの虐殺」とよばれる、五輪反対の学生デモに軍隊が発砲し殺害する事件があり、それを劇にしたという。これはミュンヘン五輪の委員会が批判劇上演を企画したのか、それとも寺山がわざとそうしたのか、そこらの記述があいまいなのが惜しまれる。しかし途中で現実のテロ事件が起こり、行事は中止される。各国からの参加劇団は抗議デモを行なったが、寺山はデモなど何の役にも立たないとし、そのかわり委員会が用意した大道具小道具のいっさいに火をつけて燃やしてしまった。抗議を葬送の劇に変えたのだ。

「身毒丸」は、寺山・シーザー演出と蜷川幸雄演出をビデオで見比べて、あまりの違いに、前者の土着のすさまじい凶凶しさと、後者の貧弱ぶりに唖然としたことがあったが、これについて《蜷川幸雄演出の「身毒丸」は岸田理生が「商業用演劇」として一部書き直したもので、オリジナル版の持つ毒々しく不条理な色彩は消え、母子の愛憎に焦点を絞った平板で味気ない舞台となった。タイトルが同じというだけで二つはまったく別の舞台であると考えるべきだろう》と著者はのべる。

天井桟敷「毛皮のマリー」をみた三島由紀夫は、主演の丸山明宏を俺に貸してくれと寺山に頼み、「黒蜥蜴」等に出演するようになったという。三島・寺山・美輪明宏の関係を描いた一冊を誰かに書いてほしいなあ。

かくして、今日も正義は、私によって守られた。




寺山修司に愛された女優---演劇実験室◎天井棧敷の名華・新高けい子伝
河出書房新社
山田 勝仁

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