世界文学大作戦:三国志演義の巻

この夏は「世界文学大作戦」と称して、世界の古典文学を読んでいこうと思うのだが、そのまえに、池田清彦『「進化論」を書き換える』は、最新の進化理論をおさえた好著だった。

突然変異と自然淘汰の新ダーウィン主義はいまでも進化論の主流を占めているようだが、分子生物学の世界では獲得形質の遺伝が研究されているという。
《今日び語られる獲得形質の遺伝という話は、親がテニスを練習して上手になったら、その子は生まれつきテニスが上手いか、といった俗な話ではなく、細胞の内の高分子の化学的な変化が、細胞分裂を経て遺伝するかどうかといった話なのだ》と著者はのべる。
エピジェネティクス進化論については以前も紹介したこちらの記事に書かれており、ダーウィン派(資本主義的)とラマルク派(共産主義的)のイデオロギー闘争にもふれていて、興味深い。
http://www.epigene.biz/index.php
池田清彦によれば、《DNAの配列は変化せずに遺伝子機能が変化し、それが細胞分裂を経て遺伝される仕組みを、エピジェネティクスと呼ぶ。》
飢餓状態に陥った細菌は、状況を打開するために、高頻度でDNAの組換を起こすという。環境が変化の方向を決定する。生物は変わるべくして変わるのではないか。
まだはっきりしたことはわかってないが、突然変異と自然淘汰という物語、進化は目的を持たないという発想はまもなく終焉を迎えるのではないか。

さて、今年初めに、近所の中古書店で、平凡社の中国古典文学全集が十数冊売り出されているのをみつけた。一冊105円なので、これは買わねば、と三国志演義・水滸伝・西遊記・金瓶梅など計13冊を購入した。
んで、半年かかってやっとこさ三国志演義を読み終えたのだ。

三国志は三十年ちかくまえに、吉川英治の小説で読み、この世にこんな面白い物語があるのかと感動した。ずいぶん経ってから村上知行訳『三国志』も読んだ。演義の原形にあたるという『三国志平話』も読んだが、こちらはあまり面白くなかった。京劇や中国製のドラマも観てみたが、演義の感動にはとうてい及ばない。
村上訳は詩の部分を省略したもので、完訳は今回読んだ立間祥介(先日亡くなられた)のものが初めてだったそうだ。

とにかく登場人物が膨大なので、途中で「これ誰だっけ?」となってしまう。『三国志人物事典』なる本を105円で売っているのを見つけ、買おうか迷ったすえ、分厚いので諦めたのだが、やっぱり手元に置いておくべきだったと後悔しながら、頁を遡り人物を探り確認しながら読む。
吉川三国志を読んだとき、最も印象に残ったのは孔明と並び称され、二人を手に入れた者は天下を取れるとまで言われながらも若くして命を落とすホウ統だったけれども、今回は孔明の後継者として最後の最後まで蜀を守り抜こうと智謀を尽くす姜維が心に残る。この人物のことはまったく記憶になかった。
物語自体、劉備・関羽・張飛の死後はどんどん盛り下がり、孔明の死後はもうほとんどどうでもよくなってしまい、吉川英治も孔明以後は端折って終わらせているほどなのだ。

ひとつ疑問は、仁義の人とよばれる劉備玄徳が、意外と節操なく、あちらについたりこちらについたり、約束を破り、あげくは恩人の領地を奪い取ってしまうという、悪辣非道にみえるところ。なぜこのような人間が古来から民衆に愛されてきたのか? おもうに彼は、善政を敷き人民を慈しんだからではないだろうか。そこを省いて娯楽に徹しているからこそ、三国志演義は名作なのかもしれない。

ひきつづき、水滸伝に挑戦しよう。

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