アレクサンドルデュマ「黒いチューリップ」

引越しのバタバタも落ち着き、疲労も回復してきたので、少しずつ本を読み始めている。中公版世界の文学7で、ビクトルユゴー「氷島奇談」とアレクサンドルデュマ「黒いチューリップ」を読んだ。これは面白かった。

「氷島奇談」も面白いのだが、悪魔と恐れられる山賊、アイスランドのハンの存在があまりにお伽話風で(斧を担いで熊にまたがる、まるで金太郎だ)違和感をあたえる。でも原題が「アイスランドのハン」なのだそうで、ユゴーはこうした辺境の地に取材した伝奇性をこそ描きたかったのかもしれない。

「黒いチューリップ」は圧倒的に面白かった。17世紀のオランダで起こったじっさいの政変をもとに、うつくしい純愛の物語を描きだす。冒頭の、謀略と扇動により熱狂した群衆が、共和派の宰相兄弟を虐殺するくだりは迫力があり、デュマの生まれる前に起こったフランス革命の狂騒の恐ろしい記憶がなまなましく残っていたように思われる(近いところではカダフィ大佐の虐殺を思い起こさせる)。
そして、事件に巻き込まれ、投獄された、チューリップを愛好する青年と、牢番の娘との恋物語が進行する。ふたりの運命から、最後の最後まで目が離せない展開。新種のチューリップをうみだす情熱は、金魚の飼育に類似するので、俺にははげしく共感できるのだ。この小説はバルザックの最良の作品とくらべても遜色ない。ちょっとした密室トリックも登場する。密室トリックとは監禁状態からいかに脱け出すかという工夫から生みだされたものではないかとあらためて思う。「パリのモヒカン族」も翻訳してほしいと願う。

あとは日本の古典文学にも親しもうと丸谷才一や大岡信の評論など読んでいる。これはあくまでちょっとした教養を身につけるため。そろそろ次回作の構想を本格的に練らなければならない。

かくして、今日も正義は、私によって守られた。

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