アジアにめざめたら

東京国立近代美術館で「アジアにめざめたら アートが変わる、世界が変わる 1960‐1990年代」をみた。

正直、現代美術に親しむのはもうやめようと思っていた。つまらないものが多すぎるのだ。これからは民俗に生きよう、と決意した。でも少し前に横浜美術館でみた「モネ それからの100年」は刺激的で、現代美術も捨てたもんじゃない。このたびの展覧会は、アジアの戦後美術を網羅的に回顧するというもので、これはやはりみないわけにゆくまい、と足を運ぶ。そしたらかなり面白かったのだ。

最初の展示室に掲げられたシン・ハクチョル(韓国)の絵がすばらしい。血塗られたような赤黒い画面、首のない人が抱えるのは木なのか土なのか、そこから炎のように噴きあがりたちのぼるのは強権に抵抗する民衆か。隣のフィリピンはレナート・アブランのマルコス政権と闘う人人の絵も迫力に満ちている。
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さらにすごいのはシンガポールのインド人ラジェンドラ・グールと松本俊夫の映像作品。めまぐるしく散乱するショットや、落下するカメラの激しい回転が、戦乱に揺るがされた世界と実存の不安を掻き立てる。
つづくパフォーマンスは映像や写真で見てもさほど面白くはないが、解説を読むとなるほどと納得させられる(中国のジャン・ペイリーと韓国のパク・ヒョンギのビデオ作品はトーキョーアーツアンドスペース本郷の「日/中/韓パフォーマンスとメディア 70’s-90’s」で出光真子作品とともに上映されていた)。
資本主義批判と題された場所でのインスタレーション作品はかなり面白い。シンガポールのタン・ダウの作品には生物の虐殺・環境破壊への視点がみられ、韓国オ・ユンの地獄図は素朴な民画の筆致で世相を撃ち、ミン・ジョンギの不気味な絵は(ちょっと石田徹也を思わせる)あるいは中国の現代前衛画家にも影響を与えているんじゃないだろうか。インドネシアのデデ・エリ・スプリア「迷宮」という絵は超現実的に現実世界を切り取っている。
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それからフィリピンの音楽家ホセ・マセダのパフォーマンス音声があった。マセダの本は学生時代に読み、その実験的上演は気になっていたが、ようやく内実にふれることができた。聴いただけでは面白いものでもないが、図録の解説にはその方法論と実践の矛盾が指摘されていて、興味深い。
最も迫力を感じたのは「アート・アクティヴィズムと社会運動」のコーナー。各国の民衆運動が作品化されている。イム・オクサン「原野の炎」という絵が殊に素晴らしい。楊茂林(台湾)の大型絵画もすごい。

というわけで、アジア現代美術の素晴らしさを堪能した展覧会だった。東京では展示されない作品もあり、解説も含蓄に富んでいるので、これは図録を買ったほうがよい。長い映像作品は全部見切れなかったので、もう一度見に行ってもいいかな。

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