詩と箴言:ウイグルの詩人アフメットジャン・オスマン

髪が白いとか皺が寄っているといっても、その人が長く生きたと考える理由にはならない。長く生きたのではなく、長く有ったにすぎない。たとえば或る人が港を出るやいなや激しい嵐に襲われて、あちらこちらへと押し流され、四方八方から荒れ狂う風向きの変化によって、同じ海域をぐるぐる引き回されていたのであれば、それをもって長い航海をしたとは考えられないであろう。この人は長く航海したのではなく、長く翻弄されたのである。(セネカ「人生の短さについて」茂手木元蔵訳)

めづらしき書をえたらむには、したしきもうときも、同じこころざしならむ人には、かたみにやすく借して、見せもし寫させもして、世にひろくせまほしきわざなるを、人には見せず、おのれひとり見て、ほこらむとするは、いといと心ぎたなく、物まなぶ人のあるまじきこと也、(本居宣長『玉勝間』村岡典嗣校訂)

財あるものの訟は、石をもって水に投ぐるがごとし。乏しきものの訴は、水をもって石に投ぐるに似たり。ここをもって、貧しき民は所由(せんすべ)を知らず。【財産ある人の訴えは、石を水の中に投げ入れるようにたやすく目的を達成し、反対に貧乏な人の訴えは、水を石に投げかけるように、とても聴き入れられない。こういうわけであるから、貧乏人は、何をたよりにしてよいのか、さっぱりわからなくなってしまう。】(十七条憲法 中村元訳)

中国政府による恐ろしいウイグル人弾圧の実態が告発され、非難されている。ウイグルには強制収容所が作られ、女性は避妊手術までさせられているという。
ウイグルの詩人アフメットジャン・オスマンの詩集二冊を読む(ムカイダイス+河合眞訳)。
アフメットジャン・オスマンはウイグルを代表する詩人だそうで、ウイグル語とアラビア語で詩を書く天才だが、その詩は出版禁止にされ、現在はカナダ在住という。訳者まえがきによると「党と政治の讃歌しか書けなくなったウイグルの詩の現状を変えようとの思いから、氏はウイグル古代文学、チャガタイ語で書かれたチャガタイ文学を研究し、現在のウイグル文学に通じるチャンネルを作り、そこから美しい言葉を選び抜いて現代ウイグル文学、ウイグル詩の中に使うことを提唱した。また自ら率先して、ウイグル古典文学の精髄を現代ウイグル文学に継承する困難な作業に取り組んでくれた」。
ウイグルの歌舞音曲ムカームはまえにふれたが、アラブやペルシャの影響が強いのだろう。
https://oudon.at.webry.info/201712/article_3.html
アフメットジャン・オスマンはさらに西洋詩にも造詣が深いようで、その作品は象徴主義的な難解さに満ちている。

  「夜の残り」
 イナンナ
 ああ 千一夜のベッドにいる淫乱
 私は追放された あなたの夫タンムーズ
 私は法に支配されない
 地に住んでいる
 私の心は
 海のように満ちては引いていく
 生と死が
 永遠の潮汐をつくりだしている
 
 私は 今
 言葉から解放されて
 夜に捕えられた状態で
 あなたに
 地下の世界から手紙を書いている
 白い紙の上で 散らばった言葉を
 家畜でもないのに
 連れまわしている
 これまでも そうであったように
 地面には草花が生えていた
 思考は赤色の希望を咲かせていた

 私の昼を支配したもの
 疑わしき状態で現れ
 その理由については
 いかなる議論も受け付けない
 私の執念がある
 夜の残りがある
 それは夜の全て
 太陽が昼の隘路を通りながら
 はじめての思考を練った

 祖先たちの内心から天に昇った
 悲しき嘆きのような
 地下の世界の門の不安げな衝突
 病んだ記憶を目覚めさせる
 月が出ている間

 イナンナ
 君の美味しそうな名前を発音する時
 偽善者である一人一人の読者を視野に入れている
 私のような一ウイグル人が書いた
 堪能なアラビア語で書いたものを読みながら
 彼は驚き あらん限りの声で叫ぶ
 君の言葉 わが貴公子 言語の結婚式
 全ての楽しい神々が参加した
 新郎の君が消えた
 書き終えて間もなく
 紫煙の帷子に巻かれて
 死人のように ソファーに沈み込んだ

 ああ 偽善者の読者よ 私に似た人びとよ
 夜の残り と私が言及した時
 言語の蜘蛛が
 憂鬱な夢を編み続けている
 私たちのようなタンムーズ似の黒い蜘蛛
 死を否定する生きとし生ける人々に
 地下の世界の情報を伝える
 私たち一人一人を私は非難するとして
 私たちは歌人を殺すような 不公平な
 陰謀に関わってしまったから

 このような
 私たちの夜は
 自身の暗黒から迷い出た
 夜の残りは
 言語を発した かすれながらも
 以前のように
 月光を誇りに思えない

もう一編

 君の果てしない目は 波打ち
 私は漂う帆となる
 嵐は一向に静まる気配がなく
 海嘯のうちにある危惧が響く
 岸に辿り着くことも想わず
 生きると死ぬことに拘わらず
 君という波に打ち砕かれて
 私は独り沈んで行く

うつくしい詩をぜひ味わってもらいたい。

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